NAOMI SHIGETA

玉響  たまゆら

[玉響] ほんのしばらくの間、一瞬

昨年私は初めての手術、入院を経験した。
手術後、薄暗い回復室に移された私は麻酔のせいで頭がもうろうとしていた。
鈍い痛みと吐き気がしたが、自分が今どういう状態なのかがよくわからず 生きているのか、死にかけているのか、実感がない。
誰かに何かを話しかけられても、よくわからないし目もうまく開けられない。
暗闇にひとり置き去りにされたようで、とても不安だった。

その暗闇の中で唯一はっきり感じ取ることができたのが、看護師の手だった。
彼女たちの手が私の体や頭に触れる度、何か柔らかく暖かい光に包まれたようで 私は深く安心できた。
生命とのつながりというと少し大げさかもしれないが、何も聞こえず目も見えない暗闇をさ迷うような中、手の感触だけが私に生きていることを伝えてくれたのだ。

人の中に最後に残るのは言葉やモノではなく感覚なのではないだろうか?
たくさんの時間が流れ、人は多くのことを忘れてしまう。
でも小さな喜びや美しいと感じたその時の感覚は、それが一瞬でも深く心に留まり 決して忘れられることはないのだろう。
そしてその感覚は、真夜中に降る春のぼたん雪のように柔らかな光を放って いつでも私を包み込んでくれるのだ。

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